サイバーフィジカルシステム(CPS)とは

サイバーフィジカルシステム(CPS)は、これからの社会インフラになるのか?

サイバーフィジカルシステム(CPS)は、今後の重要な社会インフラとして広く浸透していくことが期待されています。

 

このサイバーフィジカルシステム(CPS)とは、現実世界の制御対象のさまざまな状態を「数値化」し、定量的に分析することで、「経験と勘」でしかわからなかった知見を引き出す仕組みのことです。

 

 

具体的には、制御対象(例えば、人や自動車、製造装置など)に、たくさんのセンサーを取り付けて、IoT機器でそれらのセンサーからのデータを、クラウド上に「ビックデータ」として収集します。

 

補足説明)IoT機器とは、通信機能を持っており、お互いにやり取りできる機器のこと。

 

この「ビックデータ」を統計解析して、特徴量を抽出することで、制御対象を最適に制御します。

 

サイバーフィジカルシステム

 

例えば、米国の大手スーパーマーケット・チェーンで、POS[販売時点]データを分析することで、顧客は、おむつとビールを一緒に買う傾向があることがわかりました。

 

実際に調査すると、子供のいる家庭では、母親はかさばる紙おむつを買うように父親に頼み、店に来た父親は、ついでに缶ビールを購入していたそうです。

 

そこで、おむつとビールを2つを並べて陳列したところ、売り上げが上昇したとのことです。

 

つまり、POS[販売時点]データを解析することで、「おむつとビールが一緒に売れやすい」、という知見を得たわけです。

 

 

ここで問題なのは、人が統計解析する場合、膨大な組み合わせの中から、仮説を立てることで、数を絞って検証します。

 

つまり、どれだけ良い仮説を立てられるかがポイントです。

 

仮説が前提のため、人が気づけない仮説に対しては、検証することができません。

 

そのため、すべての知見を引き出すことができないわけです。

 

 

この人間の限界を超える手段として、人工知能が期待されています。

 

というのも、人工知能の『ディープラーニング』という手法を使うと、仮説がなくても、機械的に特徴量を引き出すことが可能だからです。

 

今後、全産業において、CPSをベースとした、データを解析して新たな知見を引き出すビジネスが生まれることが予想されます。

 

 

「インダストリー4.0」:ドイツ政府主導で、CPSをベースに、製造業を強化

 

インダストリー4.0

ドイツ政府は、2010年から、産官学が連携した「インダストリー4.0」というプロジェクトで、CPSをベースに、製造業を強化しようとしています。

 

「インダストリー4.0」は、トヨタ生産方式のカイゼン活動を、現場の人だけでなく、センサーからの情報をコンピュータで解析することで、より迅速に、より効率的に行おうとしています。

 

また、「インダストリー4.0」は、CPSにとどまらず、生産工程をオープン化することで、新興国も含めた世界中の優秀な企業や人と、ITC(情報通信技術)を用いてシームレスに連携しようとしています。

 

「インダストリー4.0」は、産官学のプロジェクトで、主な参加メンバーは、以下のようにです。

 

【参加企業】

 

【参加団体】

  • ドイツ情報通信業会
  • ドイツ機械工業会
  • ドイツ電気電子工業界

 

【研究機関】

  • 独フラウンホーファ研

 

ドイツの強みは、工作機械などの製造設備や自動車において、非常に大きな導入台数を持つことです。

 

それらの機器をIoT化することで、CPSの分野において、大きな影響力を持つことになります。

 

というのも、「インダストリー4.0」で決めたIoTの通信プロトコルが、デファクト化する可能性が高くなるからです。

 

 

「インダストリアルインターネット」:GE主導で、CPSをベースとしたビジネスを推進

 

インダストリアルインターネット

GE(世界最大の複合企業)は、CPSを、主力事業の航空機エンジンに適用することで、大きな成果を上げました。

 

具体的には、航空機1機当たり数百個のセンサーを搭載し、エンジンなどの稼働状況、温度、燃料消費量などの大量のデータを収集し、ソフトで解析することで、従来よりも効率的な飛行機の運航方法を提案し、伊アリタリア航空は、年間1500万ドルの燃料コストの削減に成功しています。

 

この成功体験をベースにして、これまでの商品を売って、保守・サービスで稼ぐビジネスから、データを解析することで、故障の予測や効率的運用を提案し、製品やサービスの顧客価値を高めるビジネスモデルに転換することで、顧客を囲い込もうとしています。

 

ちなみに、長期的な保守契約を結ぶ時は、エンジン以外を含む飛行機全体のデータに、GEがアクセスできる契約になっているそうです。

 

クライアント企業にしてみれば、全てを丸裸にされた状態です。

 

世界中の航空会社が相次いでGEの顧客になる中、GEには、各航空会社の飛行機についての膨大なデータを収集することが可能になり、それらのデータを比較することで、さらなる効率改善の知見や異常を検知するのに使われます。

 

GEは、このサービスを「インダストリアル・インターネット」と名付けて、航空機業界にとどまらず、発電用タービン、医療機器、鉄道など、GEが持つ多様な製品にも適用されています。

 

 

GEは、「インダストリアル・インターネット」の基盤ソフトである、「プレディクス(Predix)」と呼ぶ多様な産業機器の共有プラットフォーム(マイクロソフトのウィンドウズの産業機器版に相当)をオープン化して、社外の企業に提供していく方針です。

 

GE イメルト

また、GEのイメルトCEOは、「ソフト開発を強化し、データの分析力を磨くことが、産業機器メーカーの生き残る道である」、と語っています。

 

その言葉通り、GEは、4年前に、1200億円を投じて、ソフトウェアの開発拠点を作り、1000人を越す技術者を雇用しています。

 

 

「アナリティクス事業」:IBMも、CPSをベースとしたビジネスを推進

 

IBM アナリティクス

IBMは、1950年代後半から、半導体製造工程において、CPSをベースにして生産効率を上げており、そのノウハウを、IBMのいろいろな事業に適用して、効果検証してきました。

 

参考文献)IBMを強くした「アナリティクス」 ビッグデータ31の実践例

 

ちなみに、IBMでは、CPSのことを、アナリティクスと呼んでいます。

 

IBMが、サプライチェーン分野において、アナリティクスを適用し、現在では、IBMのサプライチェーンは世界第1級のものになっているそうです。

 

それらの成果を元に、最近は、「アナリティクス事業」として、大々的にビジネス展開しています。

 

IBMは、この「アナリティクス事業」(生データ解析)に社運をかけて取り組んでいます。

 

 

なぜ、今、CPSなのか?

 

実は、CPSの概念は、ずっと昔からあります。

 

特に、新しい考え方ではありませんが、それが、今、脚光を浴びているのか、と言えば、以下の理由からです。

 

プロセッサーが超高速になった

 GPU(グラフィックス描画エンジン)が1世代前のスパコン並
 ⇒ 統計解析するには、膨大なデータを処理する必要がある

 

通信用チップが安価になった

 スマホが普及したことで、量産効果が出た
 ⇒ 計測するIoT機器が安く作ることができる

 

ネット環境が整備されている

 どこからでも、ネットに接続してクラウド上に情報を保存できる。

 

 

CPSのまとめ

 

各国政府(ドイツなど)やグローバル企業(GE、IBMなど)が、CPSをベースにして戦略的に行動している。

 

CPSの考え方は、昔から存在し、半導体製造工程や化学プラントなどの分野においては、適用されていたのですが、導入・維持管理コストが高いため、費用対効果の面で、他の分野へスムーズに浸透しませんでした。

 

それが、昨今のプロセッサの超高速化と通信チップが安くなったこと、そして、ネットの環境が整備されたことで、CPSの仕組みを安価に作れる環境が整ったためです。

 

また、CPS推進派は、CPSを起爆剤として、新たな産業やビジネスを創出したい、という思惑もあるようです。

 

CPSは、あらゆる分野に影響を及ぼす可能性が高く、大きな需要が期待できます。

 

但し、CPSは大きな概念であり、全てを1社で供給することは難しく、それぞれの企業が役割分担して実現することが必要になります。

 

今後の課題は、CPSにおける通信やビックデータのセキュリティーです。

 

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   これからはプログラマーの時代